〔構造と成分〕
籾(籾米) から籾殻を除いたものが玄米であり、玄米は胚芽、胚乳、果皮からできています(米の断面図)。玄米全粒に対し重量比で糠層(主として果皮と糊粉層)五〜六%、胚芽二〜三%、胚乳九〇〜九二%。したがって精白により玄米から胚牙と糖層を除いた白米(精白米)は主として胚乳部分を集めたものです。七分搗き米は、十分搗き精
白で除かれる量の七〇%を除いたもので、精白歩留りは九三〜九四%です。また胱芽保有率八〇%以上に精白したものを「はいが精米」といいます。
胚乳の主成分、したがって白米の主成分はデンプンで、乾物重量の約九〇%を占めます(成分表)。白米は乾物重量で約六・八%のタンバタ質を含む。そのほか脂質、無機賀、ビタミンあるいは食物繊維の含量は少ない。これは、デンプン以外の成分の大部分は胚芽と糖層に含まれているため、精白の段階で除かれるからです。
〔日本への伝播〕
日本へのイネの渡来経路は少なくとも三つあります。すなわち朝鮮半島経由、揚子江南から、および「海上の道」(南方から) で、いずれも北、西あるいは南から九州に最初に上陸し、やがて東進しました。渡来の時期は弥生時代初期あるいは縄文時代晩期といわれ、それ以前にアジア大陸の各地ではすでに数千年近い稲作の歴史が存在していました。したがって、イネの種子とともに、畦畔をつくり水利を行う水田稲作技術と、水田農作文化が伴って渡来したと考えられます。
〔新米と古米〕
一年以上たった米が古米で、新米が出ると、それ以前の米は古米となります。二年以上古いものは古々米といいます。米の貯蔵の方法、温度や湿度の違い、さらに貯蔵の期間などによって、古米化する程度が異なり、したがって味の低下の程度が異なります。日本ではカントリーエレベーターのサイロビンに籾をばら貯蔵する以外は、大部分の米は玄米で貯蔵され、低温貯蔵(一九度C以下、相対湿度七〇〜八〇%) や準低温倉庫(常時二○度C以下) での貯蔵以普通の貯蔵条件では、玄米は翌年の梅雨を越して夏に入ると急に味が落ちるのが一般です。高温・多湿では早く古米化し、味が落ちるのは当然ですが、こういう条件下では米にカビや虫がつき、いっそう味を悪くします。また虫やカビを防ぐために薬品で燻蒸、消毒すると、さらに味を悪くする原因にもなります。籾で貯蔵したほうが、玄米で貯蔵した場合より、カビや虫がつきにくいし、米の呼吸、米が空気に触れる程度も少ないから味の変質も少ない。また白米貯蔵は玄米貯蔵より早く味が悪くなることが知られています。
〔栄 養〕
精白米一〇〇c(これは茶碗二杯分の飯にはぼ相当) の栄養素含有量は表1。総エネエルギー量は三五六`カロリーで、たとえば一日二食に飯四杯を食べると一日摂取量二五〇〇`カロリーの約三〇%が米からとれることとなります。このエネルギーの主要部分(八〇%以上)は糖質から供給され、その主体は消化のよいデンプンです。
タンパク質は約七約c含まれており、茶碗四杯で一日のタンパク質必要量約七〇cの五分の一が米でとれます。米のタンパク質は、植物性の中ではもっとも良質なものの一つです。伝統的な日本の食朝での取り合わせである米と大豆と魚は、タンパク質の面で互いに相補い、摂取の仕方として理想的に近い。ビタミンB1、B2、ナイアシンなどのB群ビタミンと食物繊維は玄米にかなり含まれているが、胚牙や糖層にその大部分が存在するため、白米には多くを期待することはできません。
〔世界の米生産と米食民族〕
世界における籾米の生産はFAO(国連食糧農業機関) の調査によると、一九八〇年以降四億トンを超え、その九〇%近くはアジアの国々で生産されています。なかでも中国の生産は一億八〇〇〇万トンに及び全体の三五%以上、ついでインドの約二〇%が大きく、日本の生産は世界の約三%です。籾米の収穫率(作付け一f当り収穫量)は北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と韓国(大韓民国)は六トンを超え、日本は五・七トンで世界の上位であるが、はかのアジアの団々ではこれらの値の半分にも至らない国が多い。
東アジアの米食地帯では米の飯を主食としており、それに副食をあわせてとるという食事体系が確立しています。この場合には米の飯は純白、淡味のものが選ばれているが、米質については細かな微妙な嗜好ができています。
インドの中西部、パキスタンから始まり、その以内のイラン、南アジア、ヨーロッパでは米は麦の次に位する重要性をもっているが、その料理法の基本は異なっています。洗った米を油で炒め、塩味を加えて炊くプラオが原型となっています。プラオには香辛料、乾梨物、肉など加えた上等品もあります。プラオの名はヨーロッパに伝わりピラフとなっています。イベリア半島のパエリャは、この系統のものです。またイタリアにはリゾットとよばれるおじや状の米のスープがあります。ヨーロッパでは最近になって、プレーン・ライスや米料理が皿の上に盛合せとして利用されるようになってきたが、それは食事の主役というものにはなっていません。
現在の米食人口は世界人口の五一%とされているが、その大部分はアジアに住んでいます。
〔神話と伝承〕
『古事記』や『日本書紀』には、高天原に天照大神の水田があり、弟の須佐之男命が暴力的でその水田の畦を壊したことや、天照大神が水稲と思われる種子を、天上の支配者の食物として天孫降隙の際に、ににぎのみことに持たせた記載があります。すなわち、天上(高大原) ですでに行われていた水田耕作(稲作)が、地上に伝えられたと考えられています。
また、『古事記』 では、須佐之男命に殺された大気都比売神の死体から稲をはじめとするさまざまなものが化生したとしているが、類型の話は『日本書紀』にもあります。月読命が葦原中国(地上)の保食神に食物を乞うたおり、保食神は口から食物を出して御馳走しようとしたので、怒った月読命は保食神を殺し、その死体の頭から牛馬、額から粟、眉から蚕、目から稗、腹から稲、陰部からは麦、大豆、小豆が生じたといいます。
米は神聖なものであり、作神(農神)や弘法大師からの授かり物という伝承もあります。神聖な米をつくる水田に床尿などの肥料を避ける例はかなり遅くまで残りました。病人の枕元で竹筒に入れた白米を振ってみせると病気が治るという振り米、神仏に詣でるときや祓のときなどに米をまいて魔物をはらう散米(ウチマキ、オサンゴ)などは、米のもつ霊力を借りようとするものでした。食物を強いる祭りとして知られる強飯式、大飯の神事にも同じような意味が込められています。出産直後に炊く産飯(ウブタテ飯)、婚礼のときに供される高盛の飯、死者の枕辺に供える枕飯は、人生三度の高盛飯といわれるが、これも誕生・再生の儀式に米の霊カを期待したものと考えられます。